出だしは順調に見えた初めての幼稚園見学。
はたして2回目の見学は、たけるの幼稚園生活への希望につながるのでしょうか?
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初めてお読みになる方はこちらからどうぞ→『第一話 来年から幼稚園』
前回までの内容
来年幼稚園の入園を控えた息子“たける”は、超がつく繊細で感受性の強い気質の持ち主。
9月に入り、同年代の子のママたち同士では幼稚園の話題が出始め、意識が高まってきていました。
“たける”のように、とても敏感で、繊細さや感受性の強さ・豊かさを生まれ持つ気質の子のことを、HSC(Highly Sensitive Child)と言います。
HSCは一般に、集団に合わせることよりも、自分のペースで思索・行動することを好みます。これはその子の独自性が阻まれることを嫌がるほどの「強い個性」とも捉えられるのです。
また、HSCは些細な刺激を察知し、過剰に刺激を受けやすいせいもあって、家や慣れている人や場所では絶好調でも、新しい人や場所、人混みや騒がしい場所が極端に苦手なのです。
さらに他の子は問題なくできることを躊躇したり、小さいことを気にしたりしがちですので、「内気」とか「引っ込み思案」とか「臆病」とか「神経質」などとネガティブな性格として捉えられ、親や先生から「育てにくい子」として扱われてしまう傾向にあります。
これらはすべてHSCの、微妙な刺激や変化を敏感に感知する繊細さである先天的な気質にあるのですが、そういう親や先生のネガティブな思いまでをも敏感に察知してしまって、HSCの「自己肯定感」や「自尊心」は低くなりやすいのです。(*HSCはアメリカのエレイン・N・アーロン博士が提唱した概念です)
HSC・HSP(Highly Sensitive Person)の特徴
※個人差があり、当てはまるものや、その強弱は、人によって異なります。
また、HSC・HSPという敏感さと、HSS(High Sensation Seeking=刺激追究型)もしくはHNS(High Novelty Seeking=新奇追究型)という強い好奇心を併せ持っているタイプの子・人が存在しますが、ここではHSC・HSPの特徴について記し、HSS・HNSの特徴については触れていません。
①すぐにびっくりするなど、刺激に対して敏感である。細かいことに気がつく(些細な刺激や情報でも感知する)。
②過剰に刺激を受けやすく、それに圧倒されると、ふだんの力を発揮することができなかったり、人より早く疲労を感じてしまったりする。人の集まる場所や騒がしいところが苦手である。誰かの大声や、誰かが怒鳴る声を耳にしたり、誰かが叱られているシーンを目にしたりするだけでつらい。
③目の前の状況をじっくりと観察し、情報を過去の記憶と照らし合わせて安全かどうか確認するなど、情報を徹底的に処理してから行動する。そのため、行動するのに時間がかかったり、新しいことや初対面の人と関わることを躊躇したり、慣れた環境や状況が変わることを嫌がる傾向にある。急に予定が変わったときや突発的な出来事に対して混乱してしまいやすい。新しい刺激や変化を好まないのは、“刺激への馴れが生じにくいこと”の影響も大きい。
④人の気持ちに寄り添い深く思いやる力や、人の気持ちを読み取る力など『共感する能力』に秀でている。細かな配慮ができる。
⑤自分と他人との間を隔てる「境界」が薄いことが多く、他人の影響を受けやすい。他人のネガティブな気持ちや感情を受けやすい。
⑥直感力に優れている。漂っている空気や気配・雰囲気などで、素早くその意味や苦手な空間・人などを感じ取る。先のことまでわかってしまうことがある。物事の本質を見抜く力がある。物事を深く考える傾向にある。思慮深い。モラルや秩序を大事にする。正義感が強い。不公平なことや、強要されることを嫌う。
⑦内面の世界に意識が向いていて、豊かなイマジネーションを持つ。想像性・芸術性に優れている。クリエイティブ(創造的)な仕事に向いている。
⑧静かに遊ぶことを好む。1対1や少人数で話をするのを好む。自分が交流を深めたい相手を選び、その相手と同じことを共有し、深いところでつながって共感し合えるようなコミュニケーションを好む傾向にある。大人数の前や中では、力が発揮されにくい。自分のペースで思索・行動することを好む。自分のペースでできた方がうまくいく。観察されたり、評価されたり、急かされたり、競争させられたりすることを嫌う傾向にある。
⑨自己肯定感が育ちにくい。外向性を重要視する学校や社会の中で、求められることを苦手に感じることが多く、人と比較したり、うまく行かなかったりした場合に自信を失いやすい。
⑩自分の気質に合わないことに対して、ストレス反応(様々な形での行動や症状としての反応…HSCの場合「落ち着きがなくなる」「固まる」「泣きやすい」「言葉遣いや態度が乱暴になる」「すぐにカッとなる」、「発熱」「頭痛」「吐き気」「腹痛」「じんましん」など)が出やすい。細かいことに気がついたり、些細な刺激にも敏感に反応したり、過剰に刺激や情報を受け止めたりするため、学校や職場での環境や人間関係から強いストレスを感じてしまい、不適応を起こしやすい。人の些細な言葉や態度に傷つきやすく、小さな出来事でもトラウマとなりやすい。
そこで、幼稚園の見学をさせてもらったところ、温かく迎えてもらった“たける”はとても楽しんで、幼稚園が大好きに。
2回目の見学
たけるの「また幼稚園に行きたい」という気持ちは変わらず、
前回の見学から2週間後、迷惑じゃないかな、とどこかで不安も抱えながら思い切ってまた幼稚園へ行きました。
「おはようございます、先日はありがとうございました。あの、もしご迷惑でなければ今日もまた見学させていただけないでしょうか?」
「もちろん良いですよ。たけるくん、よろしくね」
「たけるくーん、おいでおいで,、 幼虫がさなぎになったよ!」
「わぁ、金色だ!!」
「これ幼虫」
「大きくなってる!!」
「見て見て、ほら、このオオゴマダラ、羽化したばかりで羽を乾かしてるよ」
「わぁ~!」
おやつの時間
「おやつの時間ですよ~、手を洗いましょう」
「よかったらたけるくんとお母さん、一緒にいかがですか?」
「え?いいんですか?」
「お休みの子がいるのでひとつ余るんですよ」
「ありがとうございます。それじゃあお言葉に甘えて・・・」
「では、いただきます!」
「幼稚園では牛乳はストローじゃなくてパックの口を開けて飲んでいるのよ」
「口を開けて飲むのは初めてだね」
「おいしい!」
たけるはその日も最後までいたいと望み、最後まで楽しく滞在させてもらいました。
だったら行かない
「たける、幼稚園気に入っちゃったね」
「たける気づいた?幼稚園のみんな、ママは一緒じゃないでしょ?
ママと離れて、先生やお友達と一緒に過ごしてるの」
「たけるも幼稚園生になったら同じように、ママと離れて先生やお友達と活動するんだよ」
「ママと離れては行きたくない」
「でもママは幼稚園生じゃないから一緒には行けないんだよ」
「だったら行かない」
「だけど次も幼稚園に行くの楽しみなんでしょ」
「ママと一緒だから。じゃないと楽しくない」
(以前保育園に入園した2日間のこと、トラウマになっていまだに尾を引いてるのかな・・・。
いつかはみんな親から離れて幼稚園や学校に行く。
その“いつか”はもうすぐそこまできてる。
それどころか、たけると同じ年中の年の子は普通ならみんな幼稚園に行ってる。
でもたけるは違う。ママと離れることを徹底して嫌がる・・・
私の育て方が悪かったのかな)
「パパはどう思う?」
「たけるには意志があるんだよ。たけるがまだ言葉にできないような心の声を拾ってきてさ、ママはそれを精一杯尊重してきたでしょ。だからたけるは5歳なりの言葉で、自分の意志や感情をちゃんと表現することができるんだよ」
「そうなんだけど、尊重しすぎてママから離れられなくなってしまったのかなって」
「それは今だけを点で見てるんであって、線で見ることを忘れていないかな。たけるは存在や気持ち、ペースがないがしろにされたらすぐに体や心に反応が出る子だから、結局尊重するしかないって気づきながら、たけるに合わせて俺たちの方が変わっていった」
「そうなんだよね。たけるによって変わらさせられてる」
「社会に適応し、人に合わせることが普通で当たり前だと思っていたけど、それより先に大事にしなければいけないものがあると、たけるが教えてくれてるって感じてきたんだよね」
「うん…。でもどうしてこんなに甘えんぼなんだろう」
「もしかしたらそっちの方が普通なのかもしれないよ」
「え?」
「みんながみんなってわけじゃないけど、ママと離れたくない、まだまだママと一緒にいたい、という気持ちが本当という子、多いんじゃないかって。
だけど子どもがどんな気持ちだろうと、世の中のシステムに従って集団生活に移行しなければならない」
「それはそうだよね。泣こうがわめこうが、否応なしに移行しないといけない。
考えてみたら変だね。
でもだからって子どもの気持ちを尊重したら、いつまでも自立できないままだし、過保護だから親離れできないんだ、なんて思われてしまうんだよね」
「自立の前にしっかり甘えて心が満たされたかどうかが大事なんだ。
その子にはその子の、巣立っていく独自のペースもあるしね」
「私は子どもの頃全然甘えてない。いつの間にかボーッと幼稚園生になってて、一人でバスと電車乗り継いで歯医者さんに行ったりしてたけど、それって一見自立した子に見えるけど、頭の中の映像に映るのはロボットみたいな自分の姿なの。感情が見当たらない。
それでも『できない』より『できる』方が良いのかもって思う自分もいる」
「幼稚園のことが現実味を帯びてきて「人並みにしておかないといけない」とか、「他の子より遅れをとってはいけない」とか、「社会から落ちこぼれないように」とか、「世間様に後ろ指を指されないように」とか、という焦りが出てる?」
「あるよ!それはやっぱりある。子どもが適応できないと母親の子育てが問われるのが現実だもん」
「社会や教育のシステム上、そういう考えに支配されている大人は、想像以上に多いからね。
そのような考えを持った大人の気配を肌で感じながら、ほとんどの子は、本当の気持ちや感情を封印させて適応し、自分の居場所を見つけて集団生活に慣れていってるのは確かだよね。
だからこそ、集団がどうしても合わない気質の子は苦しい。
子どもはとりあえず、自分の意志とは関係なく与えられた目の前の環境に適応しようと必死になるので、その子本来の気質や欲求、自然に湧いた感情は水面下に潜ってしまう。
中には、慣れているように見えても、心の飢えや深刻なトラウマを抱えたり、心の中に問題が蓄積してしまう子が必ず出てくる。
問題が子ども時代は潜在化していて、大人になって出てくることもあるよね。
だから、嫌だと言えたり、自分のニーズを伝えることができるということは、自分自身を守るための大事な自己表現力だし、自分の深いところから湧いてきた考えや自発的な意志を優先しようとする態度は、『甘え』というより、将来自立していく意味でも、人間にとってとても尊いものなのだと思う。
たけるは、まだ5歳だし、言語力や表現力がまだ備わっていないから、ある程度は親がそれを補って伝えてあげる必要も出てくると思う」
「カウンセリングを受けられるクライエントさんは、ほとんどそういう気質の方だもんね。
たけるもパパもそのタイプ。
わかる人にしかわからないところなだけに難しいね」
「たけるには意志があるんだ。“自分の意志”を持ってるし、独自のペースもある。それを奪いたくない。たけるの感じることや嘘偽りない反応に、俺たちは親として向き合い、たけるにとって本当に必要なことは何かを真剣に考えなくちゃいけないと思う」
「たけるにとって本当に必要なこと・・・」
たけるは、入園も慣れも一筋縄ではいかないかもしれない。
そう覚悟しておいた方がいい。
たけるにとって本当に必要なことって一体何なんだろう。
次回につづく・・・
(*この物語は、実話をもとにしていますが、個人名や団体名、エピソードの一部に変更を加え、事実と異なるところがあります。)
ー著書紹介ー
知らぬ間に受け継いだ「生きづらさの種」を取り除き、
本当の自分を取り戻す「読む子育てセラピー」本
『ママ、怒らないで。』を出版しています。