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初めてお読みになる方はこちらからどうぞ→『第一話 来年から幼稚園』
前回までの内容
息子“たける”は、超がつく繊細で感受性の鋭い気質の持ち主。
入園の半年ほど前から「ママが一緒でなくては幼稚園に行かない」と言うたけるの気質に合った集団生活への移行方法を考えてきた。
そこで「慣れるまでは母親が園に付き添う」という方法を取らせてもらうことに。
入園式を終え初登園したたけるの、何度もママのところに来る、その他課題が見えたところでママは先生や園長先生と面談をした。
その翌日、たけるは大きな変化を見せた。
“たける”のように、とても敏感で、繊細さや感受性の強さ・豊かさを生まれ持つ気質の子のことを、HSC(Highly Sensitive Child)と言います。
HSCは一般に、集団に合わせることよりも、自分のペースで思索・行動することを好みます。
これはその子の独自性が阻まれることを嫌がるほどの「強い個性」とも捉えられるのです。
またHSCは、「内気」とか「引っ込み思案」とか「神経質」とか「心配性」とか「臆病」などとネガティブな性格として捉えられがちなのですが、
「内気」「引っ込み思案」「神経質」「心配性」「臆病」な性格というのは、持って生まれた遺伝的なものではなく、後天的なものであり、それは過去におけるストレスやトラウマ体験が影響しているものと考えられています。
ほぼ5人に1人は、HSCに該当すると言われ、HSC自体は病気や障がいではなく、とても敏感で感受性が強く、かつ繊細さを持った生得的な気質なのです。
(*HSCはアメリカのエレイン・N・アーロン博士が提唱した概念です)
HSC・HSP(Highly Sensitive Person)の特徴
※個人差があり、当てはまるものや、その強弱は、人によって異なります。
また、HSC・HSPという敏感さと、HSS(High Sensation Seeking=刺激追究型)もしくはHNS(High Novelty Seeking=新奇追究型)という強い好奇心を併せ持っているタイプの子・人が存在しますが、ここではHSC・HSPの特徴について記し、HSS・HNSの特徴については触れていません。
①すぐにびっくりするなど、刺激に対して敏感である。細かいことに気がつく(些細な刺激や情報でも感知する)。
②過剰に刺激を受けやすく、それに圧倒されると、ふだんの力を発揮することができなかったり、人より早く疲労を感じてしまったりする。人の集まる場所や騒がしいところが苦手である。誰かの大声や、誰かが怒鳴る声を耳にしたり、誰かが叱られているシーンを目にしたりするだけでつらい。
③目の前の状況をじっくりと観察し、情報を過去の記憶と照らし合わせて安全かどうか確認するなど、情報を徹底的に処理してから行動する。そのため、行動するのに時間がかかったり、新しいことや初対面の人と関わることを躊躇したり、慣れた環境や状況が変わることを嫌がる傾向にある。急に予定が変わったときや突発的な出来事に対して混乱してしまいやすい。新しい刺激や変化を好まないのは、“刺激への馴れが生じにくいこと”の影響も大きい。
④人の気持ちに寄り添い深く思いやる力や、人の気持ちを読み取る力など『共感する能力』に秀でている。細かな配慮ができる。
⑤自分と他人との間を隔てる「境界」が薄いことが多く、他人の影響を受けやすい。他人のネガティブな気持ちや感情を受けやすい。
⑥直感力に優れている。漂っている空気や気配・雰囲気などで、素早くその意味や苦手な空間・人などを感じ取る。先のことまでわかってしまうことがある。物事の本質を見抜く力がある。物事を深く考える傾向にある。思慮深い。モラルや秩序を大事にする。正義感が強い。不公平なことや、強要されることを嫌う。
⑦内面の世界に意識が向いていて、豊かなイマジネーションを持つ。想像性・芸術性に優れている。クリエイティブ(創造的)な仕事に向いている。
⑧静かに遊ぶことを好む。集団より一人や少人数を好む。1対1や少人数で話をするのを好む。自分が交流を深めたい相手を選び、その相手と同じことを共有し、深いところでつながって共感し合えるようなコミュニケーションを好む傾向にある。大人数の前や中では、力が発揮されにくい。自分のペースで思索・行動することを好む。自分のペースでできた方がうまくいく。観察されたり、評価されたり、急かされたり、競争させられたりすることを嫌う傾向にある。
⑨自己肯定感が育ちにくい。外向性を重要視する学校や社会の中で、求められることを苦手に感じることが多く、人と比較したり、うまく行かなかったりした場合に自信を失いやすい。
⑩自分の気質に合わないことに対して、ストレス反応(様々な形での行動や症状としての反応…HSCの場合「落ち着きがなくなる」「固まる」「泣きやすい」「言葉遣いや態度が乱暴になる」「すぐにカッとなる」、「発熱」「頭痛」「吐き気」「腹痛」「じんましん」など)が出やすい。細かいことに気がついたり、些細な刺激にも敏感に反応したり、過剰に刺激や情報を受け止めたりするため、学校や職場での環境や人間関係から強いストレスを感じてしまい、不適応を起こしやすい。人の些細な言葉や態度に傷つきやすく、小さな出来事でもトラウマとなりやすい。
週が明けて
週が明けて、給食スタートの日。
慣らし期間は12時までだったのが、
今日から14時降園、時間はたっぷりです。
朝の活動
慣らし期間は控えてあった『朝の活動』が始まりました。
内容は、園庭にある植物の水やりをします。
「ジョウロに水を入れますよー」
お花や鉢に水やりをします
(はりきってるな。こういう作業は好きだもんね)
「楽しかった!」
「上手だった~、よくできたね!」
給食スタート
「今日から給食が始まります。
まずは手を洗ってエプロンと三角巾をつけます。
最初のうちは先生が手伝いまーす」
たけるだけはママのところへ。
「これから小学校の校舎へ牛乳を取りに行きます」
先生がそう言った時、
たけるの顔が曇りました。
「はい、並んでくださーい。小学校はまだ勉強中です。大きな声を出さないようにしましょう」
たけるは焦ったようにママを呼びます。
そして、手を固く握りしめて校舎へ向かいました。
身体測定
身体測定も保健室のある校舎への移動が必要でした。
ここでも明らかにゆとりをなくして、怖がる様子。
結果どの検査もつきっきりです。
でもこれは想定内。
それに、検査がスムーズに進むことが最重要という状況から、自然とたける以外のお友達のケアをすることにもなったので、たけるだけの特別扱い感が薄まったのは幸いでした。
たけるにとっての校舎とは…?
でも気になるのは『校舎』へ行くことへのたけるの反応。
ママが一緒で、しかも手までつないでいるのにどうしてだろう。
ママの手を強く握りしめる手。
重たい足取り。
ママがいるのに不安(苦痛?)な表情…。
思い出しました。これは初めてじゃない。
初めて行った大きなショッピングモールの長いエスカレーターで移動中、
吹き抜けの階下で行われているイベントで、大音量の歌や音楽が始まった時。
あの時の反応や表情ととてもよく似ている。
抱っこしても表情は変わらず何とも言えない渋い表情。
恐怖?
怯え?
嫌悪?
それもあるけど、多分・・・「抵抗不可能」なことへの「無力感」
「ボクは無力だよ」という心の声をたけるから感じる。
耐えがたい苦痛なのに逃れられない。
「抵抗不可能なのは嫌なんだ、辛いんだ」と。
これは気質からくるもので、平気な人にはわからない。
私も平気だからわからなかったもの。
その「耐えがたい苦痛」という感覚は誰にもコントロールできない。
「こらえ性がない」という類の言葉で劣等感を植えつけるのも残酷。
だから自分を守れるだけの言語力や表現力を持たない今の時期、たけるのような気質の子は特に安心で安全と感じられる基地や、どうしてもダメな時は一緒に「回避」を選んでくれる存在が必要。
校舎・・・たけるがそこに感じていたのは、
あの時と同じ「抵抗不可能」の感覚なのか・・・。
(とにかく今私にできることは、園も校舎もどの先生も安全だ、安心だとたけるが感じるようになるまで、たけるの安心の基地でいること)
来年から通うことになる小学校の校舎への反応に感じた一抹の不安は、私たちの行き先を暗示していたことにこの時はまだ気づいていませんでした。
次回につづく・・・
(*この物語は、実話をもとにしていますが、個人名や団体名、エピソードの一部に変更を加え、事実と異なるところがあります。)
参考
*HSCにとって学校生活は負担が大きく、園や学校への「適応」は簡単ではありません。例えば、新しいことや初めての場所、人が集まる場所や騒がしいところが苦手だったり、予想外のことや変化を嫌がる傾向にあります。そのために学校生活は不安でいっぱいで、とてもつらいものと感じられることが多く、HSCにとって新しい世界、特に園や学校という世界に入っていくのは、茨の道を歩いていくことを意味すると言われているくらいです。
また、物事を始めたり、人の輪に加わったりするなど、行動を起こすのにも時間がかかります。これは細かいことをじっくりと観察し、情報を深く処理(大丈夫かどうか確認)してから行動するためです。
その他、ちょっとしたことを気にしたり、刺激を受けすぎて圧倒されたりすると、落着きがなくなったり、言うことを聞けなくなったり、物事がうまくできなかったりします。恥ずかしさや刺激が多すぎて不安を感じる状況や環境では、冷静さや自制心を失って、その子が持っている本来の力が発揮できなくなるのです。
その気質や特性への認識が共有され、慣れるまでのそれぞれに合ったやり方やペースが尊重されると安心ですが、そうでない場合、自己否定感や劣等感、トラウマを抱えやすいのです。
特に幼い頃に母親から無理に引き離された経験は、HSCにとってトラウマになる(強い不安となって残る)傾向があるのです。
アーロン博士は、2015年に日本において翻訳出版された著書『ひといちばん敏感な子』(エレイン・N・アーロン/著、明橋大二/訳 一万年堂出版)の中で、次のような言葉で、HSCを持つ私たち親を勇気づけてくれています。
「HSCを育てるのは大きな喜びです。確かに、自分の子どもが『他の子と違う』ことには複雑な気持ちになるかもしれません。でも『他とは違う子の親になるなら、他とは違う親になる覚悟が必要です』。これがモットーであり、私の座右の銘です」と。
ー著書紹介ー
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