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前回までの内容
息子“たける”は、超がつく繊細で感受性の鋭い気質の持ち主。
入園の半年ほど前から「ママが一緒でなくては幼稚園に行かない」と言うたけるの気質に合った集団生活への移行方法を考えてきた。
そこで「慣れるまでは母親が園に付き添う」という方法を取らせてもらうことに。
入園後、園や先生に恵まれ楽しく過ごしていたが、隣接する小学校の校舎への移動の際に見せるたけるの様子から、今はまだ母親のサポートを必要としていることを再認識。
4月後半、お休みする日が出てきたことで他の子の気持ちが気になり始める。配慮の方法を模索するほど「ふつうであること」との矛盾が明確になった。
“たける”のように、とても敏感で、繊細さや感受性の強さ・豊かさを生まれ持つ気質の子のことを、HSC(Highly Sensitive Child)と言います。
HSCは一般に、集団に合わせることよりも、自分のペースで思索・行動することを好みます。
これはその子の独自性が阻まれることを嫌がるほどの「強い個性」とも捉えられるのです。
またHSCは、「内気」とか「引っ込み思案」とか「神経質」とか「心配性」とか「臆病」などとネガティブな性格として捉えられがちなのですが、
「内気」「引っ込み思案」「神経質」「心配性」「臆病」な性格というのは、持って生まれた遺伝的なものではなく、後天的なものであり、それは過去におけるストレスやトラウマ体験が影響しているものと考えられています。
ほぼ5人に1人は、HSCに該当すると言われ、HSC自体は病気や障がいではなく、とても敏感で感受性が強く、かつ繊細さを持った生得的な気質なのです。
(*HSCはアメリカのエレイン・N・アーロン博士が提唱した概念です)
HSC・HSP(Highly Sensitive Person)の特徴
※個人差があり、当てはまるものや、その強弱は、人によって異なります。
また、HSC・HSPという敏感さと、HSS(High Sensation Seeking=刺激追究型)もしくはHNS(High Novelty Seeking=新奇追究型)という強い好奇心を併せ持っているタイプの子・人が存在しますが、ここではHSC・HSPの特徴について記し、HSS・HNSの特徴については触れていません。
①すぐにびっくりするなど、刺激に対して敏感である。細かいことに気がつく(些細な刺激や情報でも感知する)。
②過剰に刺激を受けやすく、それに圧倒されると、ふだんの力を発揮することができなかったり、人より早く疲労を感じてしまったりする。人の集まる場所や騒がしいところが苦手である。誰かの大声や、誰かが怒鳴る声を耳にしたり、誰かが叱られているシーンを目にしたりするだけでつらい。
③目の前の状況をじっくりと観察し、情報を過去の記憶と照らし合わせて安全かどうか確認するなど、情報を徹底的に処理してから行動する。そのため、行動するのに時間がかかったり、新しいことや初対面の人と関わることを躊躇したり、慣れた環境や状況が変わることを嫌がる傾向にある。急に予定が変わったときや突発的な出来事に対して混乱してしまいやすい。新しい刺激や変化を好まないのは、“刺激への馴れが生じにくいこと”の影響も大きい。
④人の気持ちに寄り添い深く思いやる力や、人の気持ちを読み取る力など『共感する能力』に秀でている。細かな配慮ができる。
⑤自分と他人との間を隔てる「境界」が薄いことが多く、他人の影響を受けやすい。他人のネガティブな気持ちや感情を受けやすい。
⑥直感力に優れている。漂っている空気や気配・雰囲気などで、素早くその意味や苦手な空間・人などを感じ取る。先のことまでわかってしまうことがある。物事の本質を見抜く力がある。物事を深く考える傾向にある。思慮深い。モラルや秩序を大事にする。正義感が強い。不公平なことや、強要されることを嫌う。
⑦内面の世界に意識が向いていて、豊かなイマジネーションを持つ。想像性・芸術性に優れている。クリエイティブ(創造的)な仕事に向いている。
⑧静かに遊ぶことを好む。集団より一人や少人数を好む。1対1や少人数で話をするのを好む。自分が交流を深めたい相手を選び、その相手と同じことを共有し、深いところでつながって共感し合えるようなコミュニケーションを好む傾向にある。大人数の前や中では、力が発揮されにくい。自分のペースで思索・行動することを好む。自分のペースでできた方がうまくいく。観察されたり、評価されたり、急かされたり、競争させられたりすることを嫌う傾向にある。
⑨自己肯定感が育ちにくい。外向性を重要視する学校や社会の中で、求められることを苦手に感じることが多く、人と比較したり、うまく行かなかったりした場合に自信を失いやすい。
⑩自分の気質に合わないことに対して、ストレス反応(様々な形での行動や症状としての反応…HSCの場合「落ち着きがなくなる」「固まる」「泣きやすい」「言葉遣いや態度が乱暴になる」「すぐにカッとなる」、「発熱」「頭痛」「吐き気」「腹痛」「じんましん」など)が出やすい。細かいことに気がついたり、些細な刺激にも敏感に反応したり、過剰に刺激や情報を受け止めたりするため、学校や職場での環境や人間関係から強いストレスを感じてしまい、不適応を起こしやすい。人の些細な言葉や態度に傷つきやすく、小さな出来事でもトラウマとなりやすい。
ゴールデンウィーク
入園から1か月、休みながらも新しい世界でよく頑張った!
やっと慣れた頃に訪れるゴールデンウィークで振り出しに戻ることもあると聞いていたけれど、たけるは、
「そんなに長くなくていいのに。早く行きたい」
と言うほど、園での虫取りやごっこ遊びにはまって楽しく過ごしていました。
ゴールデンウィーク明け
ゴールデンウィークが終わり、5月初登園。
みんな元気で、お友達との再会と園での遊びの再開の嬉しさが伝わってきます。
苦手なことリスト
それでも苦手なことは苦手、それは一貫しています。
=苦手なことリスト=
- 他の園での交流会
- 他の園へ行き、合同で運動教室
- 小学校校舎で行われる催し全般(みんなで給食会、絵本の読み聞かせ会など)
これらに限っては、ママが一緒だろうとサポートしていようと、
一切の笑顔が消え、表情がなくなります。
特に、運動教室はてきめん!
他の園の大人数の園児と合同で行われるのですから無理はありません。
他の園の子は、嫌がって「やらない」という態度を取っても大勢の波の中に押し込まれて流されます。
たけるも、最初に波の勢いに乗ってしまって一気に充電切れ。
やっぱりダメかとわかって以降はママ同伴で何とか参加しました。
そんな中、たけると同園の子で、たけると同じ気質のある子が戸惑って動けなくなっていました。もう泣き出しそうです。
すると担任の先生はその子にぴったりついて、種目にも付き添います。
先生がその子の不安を受け止めて、大丈夫、という安心の基地になっているのを見て、
胸が温かくなりました。
こんな時、「みんなと同じ」を無理強いせず、ちゃんと不安を受け止めて包み込んでくれる先生を、たけるもちゃんと見ています。
「先生優しいね」
「ね」
たけるの、先生への信頼と安心感は、こういう場面からも得られるんだね…。
おうちで
「たけるって、自由がなくなって従わせられる状況になると、一気に充電切れが起こるんだよ」
「たけるは “自分にとって安全か”、それを慎重に見極めるよね。そしてそのための時間がけっこうかかる」
「そうそう!“怖い、無理”って気持ちが尊重される?待ってもらえる?無理強いしない?って慎重に見てる。
運動教室はね、見学希望も覚悟してるんだ。でも小学校で行われることは中々難しいんだよね。イヤって気持ちは受け止めつつ、何とかフォローしながら耐えてもらうしかない場面もある」
「大変だよね、ありがとう」
「いやいや。そうだ、たけるに聞いたら、『どんなことをするのか、と何時まであるのか、をちゃんと教えてくれたら我慢できる』って言ってた」
「それ大事だよね。たけるの主体性の表れでもあるんじゃないかな」
「え?」
「流されない。自分が何をするのか把握して主体的に取り組むことが原動力で、勝手に決められて主体性を奪われるとショートするかんじかな」
「たしかに!自分を持つって、大変だけどすごいことだね!」
「うん、たけるのそういうところは潰したくないよね。そこに見学でもいいとか、二つのうちの好きな方を選んでいいとかという選択肢があると助かるんだけどね」
「あ~、確かに選択できるとずいぶん気が楽かもしれない」
「自分が学生の時のことだけど、高校までは一つしか選択肢がなかった体育の授業が、大学に入って三つの種目から選べるシステムになっていることがわかった時に、『なんて自由なんだ』って、とても開放的に感じて喜んだことをはっきりと覚えている。子どもの自立心や独立心を育てていくという意味でも、この『自由意志による選択』と、自分の意志で考え判断して行動するという『主体性』が保証されていくかどうかがとても大事だと思うんだ」
先生への信頼が深まり、通常の園生活に楽しみを居場所を見出したたける…
たけるが予言した『ママ離れ』の時期も近づいてきていることだし、そろそろ『ママ離れミッション』を計画してみようかな・・・、選択肢を設けて。
次回につづく・・・
(*この物語は、実話をもとにしていますが、個人名や団体名、エピソードの一部に変更を加え、事実と異なるところがあります。)
ー著書紹介ー
知らぬ間に受け継いだ「生きづらさの種」を取り除き、
本当の自分を取り戻す「読む子育てセラピー」本
『ママ、怒らないで。』を出版しています。