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初めてお読みになる方はこちらからどうぞ→『第一話 来年から幼稚園』
前回までの内容
息子“たける”は、超がつく繊細で感受性の鋭い気質の持ち主。
入園の半年ほど前から「ママが一緒でなくては幼稚園に行かない」と言うたけるの気質に合った集団生活への移行方法を考えてきた。
そこで「慣れるまでは母親が園に付き添う」という方法を取らせてもらうことに。
入園から1か月後には園生活にも慣れ、楽しむように。
5月下旬、ママは、園内待機から車内待機へ移行、翌週には自宅へ戻り、完全分離したたが、小学校と合同での運動会全体練習開始とともに、ママの車内待機再開。
練習を頑張ってはいたが、我慢と葛藤のストレス反応か、発熱して休み、運動会の参加について話し合いをした。
“たける”のように、とても敏感で、繊細さや感受性の強さ・豊かさを生まれ持つ気質の子のことを、HSC(Highly Sensitive Child)と言います。
HSCは一般に、集団に合わせることよりも、自分のペースで思索・行動することを好みます。
これはその子の独自性が阻まれることを嫌がるほどの「強い個性」とも捉えられるのです。
またHSCは、「内気」とか「引っ込み思案」とか「神経質」とか「心配性」とか「臆病」などとネガティブな性格として捉えられがちなのですが、
「内気」「引っ込み思案」「神経質」「心配性」「臆病」な性格というのは、持って生まれた遺伝的なものではなく、後天的なものであり、それは過去におけるストレスやトラウマ体験が影響しているものと考えられています。
ほぼ5人に1人は、HSCに該当すると言われ、HSC自体は病気や障がいではなく、とても敏感で感受性が強く、かつ繊細さを持った生得的な気質なのです。
(*HSCはアメリカのエレイン・N・アーロン博士が提唱した概念です)
HSC・HSP(Highly Sensitive Person)の特徴
※個人差があり、当てはまるものや、その強弱は、人によって異なります。
また、HSC・HSPという敏感さと、HSS(High Sensation Seeking=刺激追究型)もしくはHNS(High Novelty Seeking=新奇追究型)という強い好奇心を併せ持っているタイプの子・人が存在しますが、ここではHSC・HSPの特徴について記し、HSS・HNSの特徴については触れていません。
①すぐにびっくりするなど、刺激に対して敏感である。細かいことに気がつく(些細な刺激や情報でも感知する)。
②過剰に刺激を受けやすく、それに圧倒されると、ふだんの力を発揮することができなかったり、人より早く疲労を感じてしまったりする。人の集まる場所や騒がしいところが苦手である。誰かの大声や、誰かが怒鳴る声を耳にしたり、誰かが叱られているシーンを目にしたりするだけでつらい。
③目の前の状況をじっくりと観察し、情報を過去の記憶と照らし合わせて安全かどうか確認するなど、情報を徹底的に処理してから行動する。そのため、行動するのに時間がかかったり、新しいことや初対面の人と関わることを躊躇したり、慣れた環境や状況が変わることを嫌がる傾向にある。急に予定が変わったときや突発的な出来事に対して混乱してしまいやすい。新しい刺激や変化を好まないのは、“刺激への馴れが生じにくいこと”の影響も大きい。
④人の気持ちに寄り添い深く思いやる力や、人の気持ちを読み取る力など『共感する能力』に秀でている。細かな配慮ができる。
⑤自分と他人との間を隔てる「境界」が薄いことが多く、他人の影響を受けやすい。他人のネガティブな気持ちや感情を受けやすい。
⑥直感力に優れている。漂っている空気や気配・雰囲気などで、素早くその意味や苦手な空間・人などを感じ取る。先のことまでわかってしまうことがある。物事の本質を見抜く力がある。物事を深く考える傾向にある。思慮深い。モラルや秩序を大事にする。正義感が強い。不公平なことや、強要されることを嫌う。
⑦内面の世界に意識が向いていて、豊かなイマジネーションを持つ。想像性・芸術性に優れている。クリエイティブ(創造的)な仕事に向いている。
⑧静かに遊ぶことを好む。集団より一人や少人数を好む。1対1や少人数で話をするのを好む。自分が交流を深めたい相手を選び、その相手と同じことを共有し、深いところでつながって共感し合えるようなコミュニケーションを好む傾向にある。大人数の前や中では、力が発揮されにくい。自分のペースで思索・行動することを好む。自分のペースでできた方がうまくいく。観察されたり、評価されたり、急かされたり、競争させられたりすることを嫌う傾向にある。
⑨自己肯定感が育ちにくい。外向性を重要視する学校や社会の中で、求められることを苦手に感じることが多く、人と比較したり、うまく行かなかったりした場合に自信を失いやすい。
⑩自分の気質に合わないことに対して、ストレス反応(様々な形での行動や症状としての反応…HSCの場合「落ち着きがなくなる」「固まる」「泣きやすい」「言葉遣いや態度が乱暴になる」「すぐにカッとなる」、「発熱」「頭痛」「吐き気」「腹痛」「じんましん」など)が出やすい。細かいことに気がついたり、些細な刺激にも敏感に反応したり、過剰に刺激や情報を受け止めたりするため、学校や職場での環境や人間関係から強いストレスを感じてしまい、不適応を起こしやすい。人の些細な言葉や態度に傷つきやすく、小さな出来事でもトラウマとなりやすい。
運動会前日の予行練習
熱が下がって、また登園と運動会の練習の再開です。
先生にも、校(園)長先生にも、たけるのそばに付き添ういきさつをお話ししたら、
「支援員の先生ということでよろしくお願いします」と、何ともありがたいお言葉をいただきました。
運動会前日の土曜日は予行練習。
入場行進から開会式、各種目の入場や全体エイサーなど、本番さながらの最終確認です。
何度もやって慣れたようでも、みんな必死です。
運動会の準備
予行練習が終わり家に帰ると、午後から先生と保護者で運動会の設営です。
パパに頑張ってもらっている間、たけるとママは他の子どもたちと虫取りなどをして待ちます。
本番がどうなるか、そしてその結果はどうなるか、コントロールはできない。
とにかくやれるだけやる!
そんな覚悟でその日を終えました。
運動会本番の朝
朝早く、お弁当を詰め、準備を整えます。
私にとっても、ママになって初めて経験する子どもの運動会。
「たける~、朝だよ」
「う~ん」
「今日は運動会だからパパも一緒だよ」
「うん」
発熱した頃からずっと表情は固いままですが、嫌がるわけでもなく、
たんたんと取り組むかんじです。
本番
「おはよう。今日はみんな頑張ろうね!」
園児たち「はーい」
「じゃあ、幼稚園生のテントに行きましょう」
普通保護者は保護者席のテントからの観覧ですが、
それについてもたけるは断固NO!
とにかくママは支援員になりきり、パパはパパで割り当てられた係を全うします。
入場行進
6月中旬の沖縄。
梅雨と初夏の間の蒸し暑い気候の中、入場行進が始まりました。
みんなもたけるも、真剣な表情。
子どもたちの頑張りをずっと間近で観てきただけに、最後尾を行進しながら、気を緩めるとうるうるしてしまいます。
小規模校ながら、観覧席にはたくさんの人がいますが、もう恥ずかしさも何も感じません。
競技スタート
開会式が終了すると、思った以上に目まぐるしく競技は進みました。
幼稚園生が参加するのは
「かけっこ」
「獅子舞」
昼食後すぐの「全体エイサー」
それが終われば後は出番が無いので解散なのですが、
これらの競技の合間にPTAリレーがありました。
こればかりはあらかじめ配置されたチームに、夫婦共々穴を空けるわけにはいかず、たけるを説得して先生にそばにいてもらいました。
仕方のないこととは言え、これに耐えるだけでも大変な成長だと思う反面、固く歪んだ表情の奥底で、たけるが何かを閉じ込めているのも誤魔化せない事実でした。
パパが参加した綱引きも、他の子は綱引きに参加したり、楽しそうに声援をおくったりしていますが、たけるだけは固い表情でだまって見つめるだけ。
そしてその表情は、お弁当の時間を含んで一貫していて、かけっこも、獅子舞もエイサーも、本当に一生懸命に立派にやり遂げて、感動的でしたが、笑顔はなく、涙もなく、つまり感情がどこかに切り離されていたのかなと・・・。
「でも、本当に頑張った。
とにかく頑張った。
たけるはもちろん、パパも、ママも頑張ったよね。
翌日はお休みでゆっくりできるし、
夏休みまでは、また普段通りの園生活に戻るわけだし、
時間が心身の疲れを回復させてくれるよね」
そう思っていましたが、たけるの心に蓄積したダメージは思った以上に深刻だったのでした。
帰宅後
運動会から解放された午後。
幼虫の頃から育てていた『オオゴマダラ』が脱皮、羽化を始めました。
どんよりしていた家の中が、ちょっと明るくなりました。
そして16時頃、なぜか突然、
「顕微鏡が欲しい」
思い当たる近場のお店に電話で尋ねてもありません。
またどんよりしてくる家の中。
通販や、翌日の買い物を提案してもダメ。
ストレスが起こしている現象だろうし、気晴らしも必要なのかなと、遠くのトイザらスまで行きました。
家に帰り着いたのは夜。
羽化を終え、羽が乾いたオオゴマダラの羽は・・・
くしゃっと歪んでいました。
うまくつかまれるようにと木を立てかけていたけど、設置の仕方が悪かったのかなぁ。
オオゴマダラに悪かったな。
適した環境で、自然に育っていたらこんな姿にならずに済んだのにね。
胸が痛みます。
翌朝、たけると一緒に見送ったオオゴマダラが、歪んた羽でゆらゆら飛んでいく姿から、『適した環境で自然に育つことの重要性』について深く問いかけられているような気がしたのでした。
次回につづく・・・
(*この物語は、実話をもとにしていますが、個人名や団体名、エピソードの一部に変更を加え、事実と異なるところがあります。)
ー著書紹介ー
知らぬ間に受け継いだ「生きづらさの種」を取り除き、
本当の自分を取り戻す「読む子育てセラピー」本
『ママ、怒らないで。』を出版しています。