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前回までの内容
息子“たける”は、超がつく繊細で感受性の強い気質の持ち主。
試行錯誤しながら次第に慣れ、園生活が楽しくなってきた頃に行われた、小学校と合同の運動会。
練習は頑張りつつも、期待に応えたいという気持ちと本当は嫌という本音が交錯し、次第に元気がなくなり、発熱。
運動会の参加について検討し、ママが離れないという約束で運動会を乗り越えたが・・・、心の疲れや失われた先への希望から、笑顔が消えた。
幼稚園へも行き渋り、園や先生、お友達との心の距離や、もう以前には戻れないことが感じられるようになった。
“たける”のように、とても敏感で、繊細さや感受性の強さ・豊かさを生まれ持つ気質の子のことを、HSC(Highly Sensitive Child)と言います。
HSCは一般に、集団に合わせることよりも、自分のペースで思索・行動することを好みます。
これはその子の独自性が阻まれることを嫌がるほどの「強い個性」とも捉えられるのです。
またHSCは、「内気」とか「引っ込み思案」とか「神経質」とか「心配性」とか「臆病」などとネガティブな性格として捉えられがちなのですが、
「内気」「引っ込み思案」「神経質」「心配性」「臆病」な性格というのは、持って生まれた遺伝的なものではなく、後天的なものであり、それは過去におけるストレスやトラウマ体験が影響しているものと考えられています。
はぼ5人に1人は、HSCに該当すると言われ、HSC自体は病気や障がいではなく、とても敏感で感受性が強く、かつ繊細さを持った生得的な気質なのです。
(*HSCはアメリカのエレイン・N・アーロン博士が提唱した概念です)
HSC・HSP(Highly Sensitive Person)の特徴
※個人差があり、当てはまるものや、その強弱は、人によって異なります。
また、HSC・HSPという敏感さと、HSS(High Sensation Seeking=刺激追究型)もしくはHNS(High Novelty Seeking=新奇追究型)という強い好奇心を併せ持っているタイプの子・人が存在しますが、ここではHSC・HSPの特徴について記し、HSS・HNSの特徴については触れていません。
①すぐにびっくりするなど、刺激に対して敏感である。細かいことに気がつく(些細な刺激や情報でも感知する)。
②過剰に刺激を受けやすく、それに圧倒されると、ふだんの力を発揮することができなかったり、人より早く疲労を感じてしまったりする。人の集まる場所や騒がしいところが苦手である。誰かの大声や、誰かが怒鳴る声を耳にしたり、誰かが叱られているシーンを目にしたりするだけでつらい。
③目の前の状況をじっくりと観察し、情報を過去の記憶と照らし合わせて安全かどうか確認するなど、情報を徹底的に処理してから行動する。そのため、行動するのに時間がかかったり、新しいことや初対面の人と関わることを躊躇したり、慣れた環境や状況が変わることを嫌がる傾向にある。急に予定が変わったときや突発的な出来事に対して混乱してしまいやすい。新しい刺激や変化を好まないのは、“刺激への馴れが生じにくいこと”の影響も大きい。
④人の気持ちに寄り添い深く思いやる力や、人の気持ちを読み取る力など『共感する能力』に秀でている。細かな配慮ができる。
⑤自分と他人との間を隔てる「境界」が薄いことが多く、他人の影響を受けやすい。他人のネガティブな気持ちや感情を受けやすい。
⑥直感力に優れている。漂っている空気や気配・雰囲気などで、素早くその意味や苦手な空間・人などを感じ取る。先のことまでわかってしまうことがある。物事の本質を見抜く力がある。物事を深く考える傾向にある。思慮深い。モラルや秩序を大事にする。正義感が強い。不公平なことや、強要されることを嫌う。
⑦内面の世界に意識が向いていて、豊かなイマジネーションを持つ。想像性・芸術性に優れている。クリエイティブ(創造的)な仕事に向いている。
⑧静かに遊ぶことを好む。1対1や少人数で話をするのを好む。自分が交流を深めたい相手を選び、その相手と同じことを共有し、深いところでつながって共感し合えるようなコミュニケーションを好む傾向にある。大人数の前や中では、力が発揮されにくい。自分のペースで思索・行動することを好む。自分のペースでできた方がうまくいく。観察されたり、評価されたり、急かされたり、競争させられたりすることを嫌う傾向にある。
⑨自己肯定感が育ちにくい。外向性を重要視する学校や社会の中で、求められることを苦手に感じることが多く、人と比較したり、うまく行かなかったりした場合に自信を失いやすい。
⑩自分の気質に合わないことに対して、ストレス反応(様々な形での行動や症状としての反応…HSCの場合「落ち着きがなくなる」「固まる」「泣きやすい」「言葉遣いや態度が乱暴になる」「すぐにカッとなる」、「発熱」「頭痛」「吐き気」「腹痛」「じんましん」など)が出やすい。細かいことに気がついたり、些細な刺激にも敏感に反応したり、過剰に刺激や情報を受け止めたりするため、学校や職場での環境や人間関係から強いストレスを感じてしまい、不適応を起こしやすい。人の些細な言葉や態度に傷つきやすく、小さな出来事でもトラウマとなりやすい。
川掃除
その日の午後は、1週間後に行われる行事の「川遊び」のために、先生と保護者で川の草刈りや掃除です。
たけるは「川遊び」は楽しみにしています。
午後、たけるは仕事中のパパがいる家に残り、私だけ川へ行きました。
幼・小学校のすぐ側の雑木林を通り抜けた先に、自然に流れる豊かな小川があったとは知らず、驚きです。
川の掃除はかなりの力仕事でした。
「川遊び」どうしようかな
「川遊び」までの数日、たけるはもう幼稚園には行かなくなっていました。
そして「川遊び」当日。
楽しみにしていたのに、
「やっぱりどうしようかな・・・」
気持ちも身体も向かいません。
楽しみだけど、全校生徒参加の大人数での行事なのがブレーキをかけるのでしょう。
実は、ママももう疲れて、どこかで何かがポキッと折れそう。
事あるごとに、ひとつひとつつまづく。
サポートしてもダメなものはダメ。
たけるの場合はわかりやすく体調に出るし、笑顔が消え失せている。
突き放せば深刻なダメージを抱えたり、信頼関係に亀裂が生じる。
あると思っていた道が今、見えなくなっている。
参加しなかった「川遊び」
「無理しなくていいし、えびとか採りたいんだったら参加するし。
ママは本当にどっちでもいいんだ」
「えび採りとかはしたいんだけど・・・やめとこうかな」
「そうだね」
結局「川遊び」もお休みしました。
ただ、「川遊び」をしないまま時が過ぎることが、なんだか胸に引っ掛かり、たけるに提案してみました。
「ねぇたける?ママ、川の場所わかったから、お昼からママと二人で川遊びしようか」
「うん!」
二人だけの「川遊び」
道路脇の雑木林は木々が生い茂って少し暗い雰囲気です。
「なんか怖い、大丈夫?」
「大丈夫!」
「わぁ、ほんとだ!川がある」
「じゃあ、川に入ろうか」
浅い川です。
川をさかのぼりながら、エビがいないか探します。
その時、頭上をカワセミが飛んでいきました。
「あ!カワセミ!本物初めて見たね、すごーい!!」
「ビューンって、早かったねー」
「あートンボ!」
「ホントだ、珍しいやつ」
「黒くてキラキラしてキレイ」
よく見たら青緑色の金属光沢が美しいリュウキュウハグロトンボです。
「エビ、ホントにいるかなぁ」
「いるはず!先生、いるって言ってたもん。
この辺つついてみよう」
「あ!いた!!」
「おぉ!ホントだ」
念願のエビ採りです。
「すごーーーーい」
エビはすぐに逃がしました。
誰もいない川で、ふたりだけの「川遊び」。
午前中はここにたくさんの園児や児童、先生、保護者が。
そこにはまだその気配が残っているようでした。
大勢で賑やかな川遊びに対して、私たちは親子だけの静かな川遊び。
どこか切ない気もするけれど、これがたけるの望む育ち方なのかもしれない・・・。
行き先が見えなくなっていた道。
たけるが進むのはこの道ではないんだな。
この先に続きは無いのだと、ふと感じました。
ちょっと胸が詰まりそうで、溢れてきた涙を隠しました。
もう、無理しなくていいね。
私は、今の道に続きが無いことにはっきりと気づくために、川にきたんだな。
運動会にも参加したんだな。
本
取り寄せていた本が届きました。
「思い切ってホームスクールで育てています」という本。
学校へは行かない選択をしたいきさつや、その後の生活について綴ってあります。
目から鱗。
1ページ、1ページと開くたびに触れる、これまで概念になかった考えや生き方に、希望が満ちてきます。
貪るように、一気に読み進めます。
「パパ!私ね、たけるはもう幼稚園に行かなくても良いと思った。
幼稚園だけじゃない。たけるが進むのは、学校という道じゃないかもしれないって思ったの」
パパの目がとっても大きくなりました。
そして、真剣な中にも安心したような表情になりました。
パパはすぐに「義務教育」など、教育の制度について調べ始めました。
次に取り寄せた、『子どもは家庭でじゅうぶん育つ』には、弁護士さんの解説で、次のように記載されていました。
義務教育の「義務」は、子どもの学ぶ権利を保障するおとなの側の義務の意味であって、子どもが学校に行く義務ではありません。親の就学義務も、子どもの学ぶ権利を親として援助する義務であり、登校を強制することが子どもの心を傷つけるような場合に、むりやり学校へ行かせる義務ではありません。(p47)
子どもの学ぶ権利は、学ぶ場と学ぶ方法を選択する自由を含んでいます。子どもにとって何が最善であるかを、親が子どもとともに考えて、選択すべきです。(p51)
『子どもは家庭でじゅうぶん育つ』より引用
「たける? ママとパパね、たけるは幼稚園や小学校に行かない道を選んだ方がいいのかなって考えてるの」
たけるは輝くような表情で、
「そう!」
と言いました。
自分でも不思議なほど、喜びが身体中を駆け巡ります。
私だけじゃなく、家の中の空気がパッと明るく、解放されたように。
どうして今まで気が付かなかったのだろう。
一体何に縛られていたのだろう。
いや、自分を縛り付けていたのだろう。
道が無いとわかった瞬間、目の前に現れたのは、
自由で明るく、家族みんなが笑顔になれる道だったのでした。
次回につづく・・・
(*この物語は、実話をもとにしていますが、個人名や団体名、エピソードの一部に変更を加え、事実と異なるところがあります。)
ー著書紹介ー
知らぬ間に受け継いだ「生きづらさの種」を取り除き、
本当の自分を取り戻す「読む子育てセラピー」本
『ママ、怒らないで。』を出版しています。
HSC(Highly Sencitive Child)=ひといちばい敏感な子のつらさや傷つきやすさに寄り添い、守るために描いた小冊子絵本です。